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世界でひとつのねぷた灯籠 WORK SHOP

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世界でひとつのねぷた灯籠

――― 今日は黒石市のNPO法人「横町十文字まちそだて会」のメンバーであり、IRODORI(いろどり)店主の木村正幸さんにお話を聞いていきます。さっそくですが、どういうきっかけで灯籠を作ろうと思ったのかお聞きかせください。

木村さん:灯籠を作ろうとしたきっかけ…実は灯籠の前に、うちわだったんですけど。同じねぷた絵を使ったうちわの制作体験を、5~6年前位からやっていて。この店の運営は所属しているNPOでやっているんですが、そのNPOが当時から街歩きツアーも企画していて、その中のコンテンツのひとつでうちわ制作体験っていうのがすでにあったんです。この店自体は去年(2020年)の8月からなので、まだ1年経っていない。オープンするにあたって、最初うちわだけって考えていたんです、無謀にも(笑)。
この店内にある一番大きな灯籠…メインになるものが欲しいなと思って、その大きな灯籠を作ったのが最初。それで、それの小さい版を商品にしたらいけるかも、と思って作ったのがこの小さい灯籠。今は灯籠のほうがメインっぽくなっているけど、元々はうちわで。事業計画もうちわの販売で出して、1日何枚売ればどうのっていう計画を出して、灯籠は一切なかったんです。
そもそも、ねぷたっていうのは祭りが終わったら大概破って捨てちゃうので、ちょっとそれ、もったいないな~って思って、再利用出来ないかなって。それで、町会さんだったり絵師さんだったり関係者にお願いして、捨てるんだったらちょうだい、みたいな。ただで貰ってきた。5~6年位前からやってるからねぷた絵のストックがある程度あったので、去年ねぷたがなくても今こうやって出来ています。

――― そういう流れだったんですね。最初、うちわや灯籠をねぷた絵の再利用で作りたい、となった時に、ねぷた関係の絵師さんとか、そういった方から抵抗だったり反発的なものはなかったですか?

木村さん:そうですね。逆にこっちで心配していた位なんですけど、おかげさまでそういった声は聞こえてこなくて。あまり無理強いしなくて、さっきも言ったように、運営自体が町づくりのNPOなので、それで販売した収益を自分の懐に入れるんじゃなくて、会の活動費になって、それがやがて街づくりに還元されるっていう趣旨自体をきちんと説明して、理解して頂いたところから譲ってもらってるから、何が何でも的な感じではないので批判的な声は聞こえてこないですね。絵師さんには、むしろ1回役目が終わったものにまた新たな命が吹き込まれて、生まれ変わって、ということをして貰っているので、とても感謝している。嬉しい。といった声を頂いています。

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――― それは非常に良い形ですね。先程のお話で最初はうちわだけで、ディスプレイ用に大きな灯籠を作ったとのことですが。その大きな灯籠に灯を入れた時、どういう印象でした?

木村さん:最初…こいつはいける…!と思いました(笑)。その大きな灯籠、結構高い所にディスプレイしてて、普通の脚立だとかなり大変なんですよ。長めの脚立のてっぺん登ってやっとなので。何人でやったかな~、やっと天井にひっかけて。で、パチって点けてうぉーっていう。初めは周り全然なくてこれだけだったから。ねぷた絵を貼るのも、まぁまぁ上手いこと貼れたなぁと思って。配色だったりとか。

――― ねぷた灯籠の特徴として、フレームごとに違う絵というか、部位が違う所を持ってきて貼るっていう風になってるじゃないですか。そこはどうしてそういう風に?

木村さん:えっとですね。今までのねぷたの絵を使った、もしくはねぷたというものの雑貨類の商品って、幾つもあったと思うんですけど。ご覧の通りねぷたの絵っていうのは絵師さんがいろいろ考えて、絵として成立してるんですね。それを、出来ればその意味を一度リセットしたい。三国志だったら三国志のこの人のこういうシーンっていう意味を一回切る…リセットして、集めることでねぷたっていうものにしたい。純粋に、そういう感じがあって。なのであえてミックスでもこだわらないし。
ただ、その中でもやっぱり絵師さんへのリスペクトがあって。ねぷたって大きく和柄と中国柄があって、それを合わせるのは自分としてもNGにしています。

――― そこは、例えば隣り合わせにしないとかそういう?

木村さん:ひとつの灯籠の中で混ぜて使わない。ねぷたって、ひとつで物語になってる。鏡絵が三国志のシーンだったら裏はその主役の奥さんだったり、美人の仲間の女武将だったり。周りもそれに関連した物語だったりで。下の額絵もみんなそうで、ひとつで完成されているんですよ。なので源平合戦描くと、裏の袖絵には平家蟹がいたりとか、そういうものなんですよ。なので三国志に平家蟹がいたら変なんですよ。そこだけはちょっと、いくら“ミックス”って言っても自分的にもそこはNGにしてるんです。

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――― なるほど。当然その和柄と中国柄のものとは、同じ絵師さんでもそれをやる時はちょっと切り替えとかしてるものなんですか?

木村さん:そうですね。色の使い方がまず違いますね。あとは柄。ちょっとダブる部分もあるだろうけれど、いわゆる漢もの中国ものにあって、和柄にはないっていうものあるし、微妙に違います。ちょっと日本のものって色がわびさび系の、割と渋い色な感じ。

――― 中国柄はもうちょっと派手?

木村さん:満漢色っていうやつですね。

――― 物語によって色とか変わるんですね。

木村さん:そうなんですよ、それが基本で。でも全部が全部ってわけではなくて。日本のものでも派手なテーマはあるかもしれないし。
昔の人のねぷたの楽しみ方って、ご老人とかは、例えばねぷたが“どんこどんこ”来るじゃないですか。で、表の柄を見ればこれは三国志のなんとかっていうシーンで、主役は誰であそこの場面だなってわかる。そして鏡絵がこれだったら、裏の絵は多分こうくるだろうなって予測するわけですよ。それで目の前を通って予想が当たってれば「ほらやっぱり」って。外れると「そうきたか~」ってなる(笑)。そういう楽しみ方をしてたって。凄い知的なんですよね、ねぷたって。

――― 絵を見てこれがこの場面ってわかること自体が凄いですよね?

木村さん:そうそう。有名な部分はね、花和尚(かおしょう)とかお坊さんだから分かるけど、でも凄いですよね。

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――― 今は一般の方でも参加して、灯籠の制作体験ができると思うんですけど。どうですか?体験のお申し込みって結構来てますか?

木村さん:そうですね。商品販売と半々くらいですかね。

――― 言ってみれば商品を買おうと思えば買えるじゃないですか。でも自分で作ってみたいと思うのはどういった所からだと思いますか?

木村さん:ん~、自分で思い通りに作れるっていうのと、これに限らず「自分で作った物」っていう満足感っていうのはあると思いますね。あらかじめ出来たものも、もちろん良いのだけれども、作る経験自体に価値があるって事をみんな感じてる。県外の方とか、よりそんな感じです。ねぷた絵の紙に触って「こんなに厚いんだ」ってみんな必ず言います。

――― 制作体験で最後、作った灯籠に電気はつけるんですか?

木村さん:完成した後に必ず灯を入れます。お店の商品をちょっと寄せて。

――― その時の反応とかは?

木村さん:100%ワーキャー言いますね(笑)。結局、祭り運行で使った分だけ若干色褪せもあるんです。貼ってる時は気にならないんだけど、生で見る分にはそこまで鮮やかじゃない。生で見てもちょっとパっとしないなっていうパーツでも、灯が入るとパァーって鮮やかに、青だったり緑だったり色が出てくる。だから、作って出来てそのまま見る印象と、灯を入れて見た印象とはかなり違う。ねぷたですから蠟(ロウ)を使ってるので、灯を入れると光がきれいで、見え方が全然違うんで。だから大概上手い事いきます(笑)。

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――― 制作体験ではなく、商品として売ってるものは結構県外の方とか買われてるんですか?

木村さん:そうですね。今だったら県外の方が少ないから、3分の1くらい?近隣の方が多いです。ねぷたって…ねぷたバカが多いから(笑)。好きなんですよ、こっちの人は。だから自分のものにしたい欲は多分あるんだと思います。毎年あるのに、でも好きなんです。毎年好き。
あと需要としてあるのは、遠方の自分の知り合いとか肉親とかに送るとか。

――― それは全く、今までねぷたを見たことない方とかに?

木村さん:いえ、元々こっちの人でねぷたを知ってる人前提で送ってる感じですね。そういう人が結構いますよ、なかなか帰省できない身内の方とかに。あとは結婚のお祝いとか新築祝いとか…開店祝いとかもありましたね。
魔よけになるしね。ねぷた自体が魔よけっていうか、邪気払いの意味があるので。夏場の眠気を払う「ねむり流し」が元々の語源っていう説があって。夏場の農作業とかの眠気を邪気として昔は捉えていて、それを払う。ねぷたを作って終わったらそのねぷたを川に流す、邪気を流す。清霊流しや灯籠流し、七夕の祭りとか変化融合して今の形になったのが「ねぷた」と言われています。

――― 払うという意味合いがあるんですね。家庭に1個っていう、玄関にあったりとか、そういうのもアリなんですね。

木村さん:商品でいえば、先程話した“ミックス”の商品が基本なんだけど、ひとつのテーマだけで作ってるやつもあって。例えば牡丹なんかもそうなんだけど、牡丹のやつは牡丹だけで作る。それがまた結構人気だったりして。牡丹って津軽人にとって特別なんですよ。津軽家の家紋だから。
ちなみに、ねぷたの牡丹が描いてある斜めの部分、弘前は「開き」って呼んでて、黒石は「皿」って呼んだりするんだけど、その下に「額」っていうのがあって、あそこの正面の方に「雲漢(うんかん)」って書いてある。雲漢って中国の天の川っていう意味。だから七夕祭りの流れっていうのは、そういう所の名残があって。で、額の周りや見送りの周りには雲があるんです。空のことです。

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――― これからこういう風に広めていきたい、進化させていきたいとか、今もし考えていることがあれば教えていただけますか?

木村さん:ここの店自体が、まちづくりNPOでやっているので、このお店だけが利益が上がって豊かになって…みたいなことは考えていなくて。勿論継続するためにそれは必要なんだけれども、例えばすぐ近所に「なんか灯籠良いらしいな」って灯籠屋が出来ても、あるいはねぷたをモチーフにしたなんかができても全然OKなんです。むしろ喜ばしい。要は、この町に賑わいが出ることが目的。店が繁盛するだけじゃなく。
そういう意味では例えば、商品じゃない貸出用の灯籠も作っていて、何かのイベントの時にそれを持っていったりして事あるごとに露出させて、もしこれが近々の方に受け入れられるんであれば、例えば「黒石といえば灯籠の町だよね」みたいなそういう風になってもいいだろうし。元々黒石って夜に艶がある町なんですよ。よされもそうだけど。だからこういう灯りだったりっていうのが合うと思うんです。夜のこみせっていいんですよ。壁側に松明っぽい照明がてんてんてんって点いて…LEDだけどね(笑)。ライトアップもしてるしね。凄い綺麗なんですよ。

――― 地域として灯籠をどんどん活用してもらうことが、ひとつの方法に?

木村さん:それもひとつの方法。そうしたいっていうことでなくて、他の方法があれば他の方法でも良いんだけど、この街に賑わいが出るようになるひとつの役割になりたいとは思っています。さっき厚意で絵をもらってきてるっていうのも、そういうことで貰えてる部分もある。そこまでちゃんと理解してもらわないと「ただで貰ってきたやつに値段付けて金儲けしてるのか」って話になっちゃうから。そうじゃなくて、その儲けた分はちゃんとそれが町づくりに還元されるっていう。そういうサイクルを作りたいなって。
多分、他と違うのは、あからさまにねぷたっていうのがこの店には一点もないんですよ。商品とかでいわゆる扇形になって組み合ってる構図の物とかひとつもないはずなんです。出来ればそこは抑えたい気持ちがあって。要はその、あんまりコテコテしたのも嫌でしょう?みなさんどう?みたいな気分があって。例えばリビングにコテコテのねぷた絵とかあっても疲れません?みたいな(笑)。
ちょっとこう、そこまでいかなくても、でもちゃんとねぷたを感じるような…店内の灯籠とかはそういう部分を意識しているから、洋風なリビングにも合うと思います。ペンダンドライトみたいなの3つくらいぶら下げればすごく素敵だと思います。絵自体がもうすでに「ねぷた」なんだから「なんたかった(どうしても)ねぷた!」ってやんなくてもいいんじゃないかなって。

――― 今日はありがとうございました。

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